デザイナー | DESIGNER
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隈研吾 | KENGO KUMA

その場所に突如として現れ、内と外を分かつものであるというのが、私たちの多くが無意識に感じている建築像であろう。20世紀に次々と建てられたシンボリックで斬新なデザインの建築は、周囲の環境から切断された、強い個性を持っている。建築は、国や経済の象徴とみなされ、強さと高さを求められてきた。

隈研吾氏は、その全く逆のアプローチの建築を目指す。建築とその周辺の空間とを、ひとつながりのものに接合してしまうような建築、すなわち、切断としての建築ではなく、接合としての建築を。個性が勝って周辺の環境が負けてしまう建築ではなく、その場所の環境を活かす建築を目指している。
氏は、住まうことというのは、すなわちそこで築かれる人間関係であり、建築は単なる硬い箱ではなく、人間同士の絆をつくり、人間の生活を強くするための脇役であると断言する。21世紀の建築は、自然に対する謙虚さを取り戻し、その「場」を活かすための、個別化された建築が必要だと言う。例えば素材ひとつにとっても、コンクリート、ガラス、鉄と言った効率的に世界中で作ることができる画一化された素材を定式のように用いるのではなく、場所にあった素材を選定する。画一化された建築では場所の魅力は引き出せない、同じであっていいはずがないというのが氏の建築哲学だ。

通常、建築の構想は形などの全体から考えられ、後の段階でディテールや素材が決められることが多いが、氏はディテールや素材を考えながら全体を考えるという、いわば両輪で走りながら設計をするという手法で構想を進めていく。一番大事なディテールや素材を決める時間がなくなって、選択がおろそかになってしまうことを避けるためだ。「現場に行かないとインスピレーションが湧かない。場所が必ずメッセージをくれる。」という氏の言葉を体現したアプローチである。

氏の建築哲学は、家具の設計にも色濃く現われている。タイムアンドスタイルとの共同開発で生まれたNC chairは、南青山にある氏の設計の根津美術館の庭園にあるNEZUCAFEのために製作された椅子である。建物は庭園に広がる緑を享受するために建物三方向を全面ガラスで開放し、切妻屋根の天井には照明をつけず、トップライトからの柔らかな光を室内に取り込んでいる。まるで森の中にいるかのような、内と外の自然な繋がりを感じられる建築である。このような場に必要だったのが、木製であり、森の静寂さやミニマルな空間に共鳴するようなベーシックで繊細な、「究極のさりげない椅子」であった。薄さと細さを追求し、限界まで突き詰めた寸法と、使う人がほっと安らぐ座り心地を両立させるのは非常に難しい作業であり、試行錯誤の連続と、より高度な技術への昇華というプロセスが必要とされた。

GC chair は同じく氏の設計した愛知県春日市にあるGCデンタルプロダクツ社のプロソミュージアム リサーチセンターのために作られた椅子である。建物は釘を一切使わずに、細い木製の角材を格子状に組み合わせる日本伝統の「千鳥格子」を立体的に編みこんでつくりあげたデザインを核とした建築であり、この「千鳥格子」をデザインソースにし、且つスタッキングができるという椅子が開発の条件であった。木製でスタッキングができる椅子というのは珍しく、製作にも非常に高い技術が必要であり、スタッキングに耐え得る強度の実現に多くの時間と試行錯誤を要した。

NC chair 、GC chairともに、氏のディテールを考えながら全体を考えるというアプローチ、そして、環境に溶け込み、そこに存在する人間を活かすという建築哲学が貫かれている。家具も建築の要素の一つであり、コンセプトや思想を共有することで、建築全体、ひいては周辺の環境との一体化と調和を実現することができるという方法論は、建築家ならではのものである。通常、我々家具メーカーは、まずモノがあって、そこから空間に繋がっていくというアプローチからものづくりをスタートさせるが、氏の場合は、まず「場」があって、そこからその「場」に接合した建築の構想が生まれ、全体の一部としての家具を考える。今回の取り組みは、アプローチの異なる両者の出会いとものづくりによる新たな価値創造の萌芽を感じることができたプロジェクトであった。

プロダクト - NC chair

プロダクト - GC chair

EXHIBITION - 隈 研吾 × TIME & STYLE