デザイナー | DESIGNER
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吉良 ゆりな | Yurina Kira

より早く、より便利に。その条件を満たしたものは、今や私たちの日常に溢れて余りある。
しかし、美しさや幸せを感じられるモノがどれだけあるだろう。

日本ではここ数年、昔のモノや思想がメディアに多く取り上げられ、いわゆる「レトロブーム」というものが続いているが、ブームと片付けてしまうにはやや息が長い。これは単なるレトロスペクティブなのであろうか。 昔の人たちの日常を取り巻いていたものは、一つ一つが実に美しい。美しさを表現するために作られたものではないのに、である。仕事や家事の道具一つにとっても、造形的な美しさもさることながら、経年変化による味わいまでもが、あらかじめ計算しつくされているかのような美しさだ。その背後には無名の職人たちの美意識とプライドが、静かに力強く横たわる。

私たちが昔のものに心引かれるのは、私たちの生活の中から少しずつ消えていった美しさや味わいというものを、無意識のうちに求めているからではないだろうか。このレトロブームの本質には、見掛け倒しではない内側からの美しさを本能的に求める日本人の心があるように思えてならない。

経済至上主義に傾く社会にアンチテーゼを唱え、行き過ぎてしまう私たちの心を立ち止まらせてくれるのが芸術だ。孤独と苦悩の中で作品を生み出す芸術家たちは、私たちに対極を見せることで、時に残酷な現実を容赦なく目の前に突きつけ、時に優しく心のバランスを取ることの大切さを教えてくれる。

後戻りできないほどに膨れ上がった大量生産、大量消費社会に生きる今、そしてこれからの私たちにとって、芸術や手仕事の美しさが、今まで以上に重要な存在になってくるはずだ。
私たちの本能が求めている美しさを満たしてくれるもの、心を潤すものと共にあるかどうかが、その人の生き方を変える。

Scheggia di roccia のオリジナルは、吉良さんがイタリアで活動していた頃に製作された壁面作品だ。前衛的な雰囲気を持ちながらも、ある種の静けさや謙虚さを感じるのは、岩山という自然の造形からインスパイアされた作品だからだろうか。
作品であったものをプロダクト化することで、芸術愛好家や一部のコレクターだけのものでない、広く開かれたものとなった。吉良さんは、作品かプロダクトかということではなく、カテゴライズ自体を超えたものを作りたいと思っている。ここ数年、ブローチの製作にも取り組んでいるが、既にアクセサリーという範疇だけでは捉えられない、唯一無二の存在を生み出している。
答えを探して苦しみながら、しかし溢れるエネルギーで製作を続ける吉良さんは、生命力に満ちている。

ひたむきな情熱が生み出したものと一緒に過ごす幸せは、何にも変え難い。

機能するかどうかという次元ではない、「幸せのためだけに存在する美しいもの」が世の中にもっとあってもいいんじゃないかと思わせる、Scheggia di rocciaはそんな存在であると思う。

プロダクト - Scheggia di rocciar