サービス | SERVICE
ニュース | NEWS

2013.03.28

山内悠写真展 「夜明け -DAWN-」

2013年4月19日(金)-5月26日(日)


地球と宇宙の境界線、雲平線の彼方に日が昇り、訪れる「夜明け」。
地上3000メートルの高さにある富士山の山小屋で600日間、 山内悠は「夜明け」を追い求めた。
その輝きは人間の生死、地球の周回を超え、宇宙の呼吸である。
作品に立ち現われた色のひとつひとつは、全ての人に、 此処に在るということの意味を語りかけるだろう。。


TIME & STYLE RESIDENCE
東京都世田谷区玉川3-17-1 玉川高島屋S・C南館6F
PHONE:03-5797-3271
OPEN:10:00-21:00
ACCESS:東急田園都市線/大井町線 二子玉川駅 徒歩2分


4年もの歳月をかけ、延べ600日間、富士山の7合目に在る山小屋で働きながら作品を撮り続けた写真家 山内 悠氏。
「夜明け-DAWN-」の作品に至る地上3000メートルの暮らしは、人の営みの原点を見つめ直す転機になったそうだ。
日本人であれば一度は登りたい富士山。しかし、600日間もその地に腰を据えたいと思う者はそうはいないだろう。
そのような非日常とも言える話に強く惹かれ、山内氏の体験について詳しく聞いてみた。

雲の上の暮らし

当初はどこか旅に出ようと身支度をしていた際、友人からの「富士山の山小屋で若い働き手を募集している」という話を聞き、一緒に参加したことから始まったそうだ。 山小屋へは、登山者が増える7月の1ヶ月前に入山する。登山道にはまだ雪が残り、足元もおぼつかない状態で生活していくための食料と必要最低限の着替えを持って登らなければならい。そして1ヶ月間は山小屋を開く準備をしながら、そこで生活していく基盤を整える。

だが、到着すると山小屋は雪の中に埋まっているのだ。
先ずは、その雪をかきわけて山小屋を掘り起こすことからここでの生活が始まる。
実はこの山小屋の周りの雪は、冬の間に何度も起こる雪崩から山小屋を守るため、あえて雪が降りはじめた早い時期に人の手で雪の中に埋めてしまうという先人から受け継いだ知恵である。
雪に埋められた小屋には、必然と積雪の重みに耐え得るように補強をしている。鉄パイプを十字にした筋交いやベニアなどの補強材を取り外していく。毎年同じ作業を繰り返し、材料を運び、小屋の修復まで協力して取り組む。雪崩で崩れた登山道や小屋の周辺には、整備のため石を積む。人が踏み入れた所から山が崩れているのだそうだ。植物も自生し難い環境下のため、地盤を固めていくには石積みの技術しかなく、一つひとつ手に取り、運び、積む。そしてまた、手に取り、運び、積む、の地道な作業の繰り返し。これが長い時間をかけて継承されてきたこの環境での営みなのだ。

次は、飲料水の確保。
もちろん、水は通ってないので雪や雨水を溜め、沸騰させて利用する。調達方法は違っても、今も昔も生きるために最も重要な水を求めることからの暮らしは変わらない。水道が整備され、蛇口をひねるだけであたり前のように水を得ることができ、飲料水を購入するような豊かな日常生活からは得られない味。山小屋付近には動物もおらず、草木もほとんど生息できない過酷な環境であることは確か。食料については、オフシーズンの定期的な下山時に人力で運ぶ。水や食料などの物質も、行動も、全ての価値や意味がこの地では地上と明らかに違ってくる。「生きるために動く」という、生活本来の姿がこの地上3000メートルの環境には在る。この小屋では鎌倉時代の青銅が発見されているため、800年ほど前から営みのあった歴史ある場所であることが確認されている。

そのような神聖な地へも現代社会の便利さの波が及んでいる。近年は黄砂や放射能の影響でろ過器を導入され、電気はソーラーで発電し、時期によってはプロパンガスを運ぶこともあるそうだ。文明の利器を自然界に運ぶことの抵抗はあるだろうが、これも一つの“生きる”という術であることは同じかもしれない。

様々な準備や整備を経て、登山シーズンに入る。 近年は登山者数が右肩上がりに推移し、2012年は約30万人の登山者数だった。シーズン前の静寂した暮らしから一変、都会の街中のような混雑に変貌するそうだ。

山内氏の滞在した山小屋は7合目に位置し、山頂を目指す登山者の休憩所でもあり、登山中に怪我や気分を悪くした人々を診るための施設でもある。また、山の天気は目まぐるしく変化するため、視界もなくなり、時には雹が降り、雷が鳴り響くなど、死と隣り合わせの危険な状況も覚悟しなければならい。
地上で生活している者にとっては全く異なる感覚で自然の猛威を感じることになる。山小屋以外には建物や身を置く場所が無いので、稲光が走ると電気を帯びたものに一直線で落雷を引き起こすそうだ。本来は御来光を臨む登山者の宿泊場所だそうだが、このような時ばかりは近くを登る人々を山小屋に誘導し非難をさせる。そうすると、山小屋の中は朝の通勤ラッシュのような状態になるそうだ。この時ばかりは都市の暮らしがこの地で活かされるかもしれない。
長年、何もかもが整えられた社会生活の中に身を置いていると、自然の驚異やいざという時の危機感が欠如してしまう。そのような方一人でも安全に登山してもらうために、そして生きて下山してもらうために全力で危険を呼びかけるのも山小屋での仕事であった。この600日間の雲の上での暮らしからは「人も自然界の一部である」ことを実感させられたそうだ。そして、自然と共存していくことこそが「生活」の原点になることを確認した。

そのような地上3000メートルの場所に、山内氏の写真に収められた世界が広がっている。 雲平線の下に広がる私たちの営みに強く美しい太陽の光が差し込み、常に表情を変えるその世界に向き合うことで、地球上に生存していることの喜びを感じ取ったのではないだろうか。
夜明け間近の真っ暗な朝方の一枚の写真がある。天地を返したことで、地上3000メートルの遥か上空に広がる宇宙空間から地球を見つめているような感覚になれたそうだ。 「ここにいる」という存在意識だけが人間としての本質を見つめ直し、生きることと時間の流れが自然であることに気づかされたのだろう。

雲の上の暮らしも、現代社会の暮らしも、本来は大きな差はなく、人間として生きるために動いていくことが生活であり、自然と共存しながら時間を過ごしていくことにしか過ぎないのだと山内氏の体験からは感じた。「夜明け-DAWN-」の作品は、私たちが生活する上空に広がる雲上の世界である。その奇跡の光景を捉えた光によって、私たちが存在しているその現在地を、作品を通して改めて確かめていただきたいと思う。

山内悠 Yu Yamauchi
1977年 兵庫県生まれ。独学で写真を始める。
スタジオアシスタントを経て、2004年より本格的に作品制作を続ける。
2010年、写真集「夜明け」(赤々舎)を刊行。
以後、国内外各地で展覧会を続ける。
受賞歴に「color imaging contest 2006」特選、「第31回写真新世紀」佳作、
「International Photography Award 2009」Fine Art部門入選、
「ヤングポートフォリオ 2011」入選がある。

http://www.yuyamauchi.com