Tanazushi

東大寺の正倉院に棚厨子と言われる木製の棚が現存しています。 1300 年前に作られたその棚は、間口約 260 センチ、高さ140 センチで、6 本の柱を立て、3 枚の棚板を渡しただけのシンプルで実用的なものです。現存する日本の家具としては最も古く、日本の棚の原形にもなっています。無垢の杉材で作られたその棚は、楽器などの調度品を収納するためのものだったと言われています。鋸がまだない時代に、職人たちの知恵と日本人の研ぎ澄まされた感性によって、釘を使わずに木のパーツのみで組み立てられたその姿は、作為のない、素朴な構造でありながら、堂々とした威厳すら感じさせます。

この棚厨子は、1300 年前に建てられた東大寺や薬師寺、そして世界で最も古い木造建築である法隆寺と言った古典建築の構造が引用されています。1000 年以上もの間、何度も繰り返された大地震や台風から、数百トンもの重量を持つ建築物を守ってきた高い耐久性と耐震性による優れた構造です。現代を生きる私たちの想像を遥かに超える木材の強度と当時の工人たちの卓越した知性と先見性を、現存するこれらの古典建築から知ることができます。

私たちはこの棚厨子を当時のままのサイズと構造で再現することにしました。詳細な資料は残されておらず、限られた文献と写真を頼りに、往年の職人たちが何を思い製作したかを想像しながら作りました。製作するにあたり、機械加工を活用しながらも、現代の生産体制では難しい部分もあり、多くの工程は鑿 (のみ) を使いながら手加工で仕上げていきました。

Tanazushi を再現することは、当時の木工職人たちの思考に触れ、古代の日本の木工技術と美意識を再認識することにもなりました。古典を写し、古典から学ぶことは、ものづくりの原点に立ち返ることに繋がります。そして、完成した製品は、古典が醸し出す空気を瞬時にまとい、単体としても充分に存在し得る力を携えていました。Tanazushi を通して、失われつつある古典建築が持つ建築の本質を知り、触れることが出来ます。数多くの天災に耐えてきた寺院建築の息吹を現代の生活空間へ呼び起こすことができる、小さな古典建築です。

Materials and finishes available for this product

Wood and FInishes