このテーブルはデザインから発想してできあがった製品ではありません。自らの手で木を削り、触りながら木材の特性を理解し、形状を見つけてゆくプロセスの中から生まれたテーブルです。どのようなスタイルの空間にも融合し、無垢の木材の柔らかな曲面と現代的な緊張感のあるラインが共存する製品を目指しました。以前は、全ての製品のデザインにおいて、6 面で構成された直方体を基本形としていました。それは日本的な意匠の真髄がシンプルな直方体にあり、そこから簡潔で潔いデザインが生まれると信じていたからです。その直方体のコーナーには必然的に尖った角が生まれ、製品の佇まいに緊張感を作り出します。しかし鋭利に尖った角は家具を使用するに際してストレスを感じることがあります。信条であるシャープな直方体で構成する基本デザインから離れることは難しい決断でしたが、時間の経過とともにそのデザインの在り方にも限界が訪れました。
Moonの天板は端に向かって緩やかに傾斜がついており、アールを描く小口に自然に繋がってゆきます。図面上でこのラインを示したとしても、機械加工だけでは有機的な美しい曲面を持った製品は生まれません。長い間、角のある直方体をデザインの基本構成としてきたからこそ、面と面をどのように繋いでゆけばしなやかで緊張感のある美しい曲面を持つ製品ができるのかを導き出すことができたのかもしれません。木は有機的な素材であり、使う人に優しい手触りを与える重要性を再認識しました。
これまでダイニングテーブルをデザインするにあたって、無垢の木の天板とその四隅に脚を備えたデザインに、天板と脚の一体感を持たせることができない難しさを感じていました。無垢の木の特性上、面の広い天板が湿度と温度の影響を受けて伸びたり縮んだり反ったりするので、必ず天板と脚の接続部に誤差が生じるからです。Moonは、天板とフレームの間に細いスリットを入れることで天板が浮かんでいるかのように視覚的に切り離しつつ、天板の小口の曲面とフレームと脚のコーナーの曲面が同調して全体が渾然一体となるバランスを探り、普遍的な存在感を持つテーブルとして完成しました。