神社に立つ鳥居の意匠と構造をデザインモチーフとしたテーブルです。鳥居とは神社の参道の入り口に設けられた俗世界と神域の境界を示す象徴です。鳥居は簡潔な形状をしていますが、風雨に強く地震の多い日本でも倒れることがなく、美しい造形をしています。大きなものでは、柱に直径60~80cmを越える樹齢100~500年の杉や檜の丸太が使われます。2本の太い柱を立て、その上に両端が反り上がった笠木と島木が、そしてその下に貫が横に渡されるというのが鳥居の基本的な構造であり、伝統的な方法で組み固められています。
Sea of tranquilityは真横から見ると鳥居と同じ構造で出来ていることが分かります。このテーブルは部材の厚みを感じさせないように全ての端部を薄く細く作っています。大きな無垢板の天板もできるだけ薄く見えるように中心から端に向かって薄く削り出しています。端部は10mm以下まで薄くしてありますが、実際には35mmの板厚があり、強度は十分に確保されています。天板と2 枚の脚を直接繋いでいるのが天板裏の1枚の幕板です。この幕板は鳥居の島木の役割を持っています。2枚の脚も端が薄く見えるように、全体を飛行機の翼のような流線形に削り出しました。そして最も印象的な意匠となっている2 枚の脚を真ん中で繋ぐ貫も同様に細く削ることで、テーブル全体の意匠に統一感と軽快感を持たせました。
Sea of tranquilityは月に存在する海の名称です。1969 年7月20日にアポロ11号によって人類が初めて月面着陸した場所がSea of tranquility =「静かの海」です。日本らしい簡潔な意匠がもたらす静けさと月の静かな海のイメージを重ね合わせ、無垢材のテーブルでありながら軽快で、洗練された静けさを湛えたテーブルが完成しました。