Stone Garden

日本の住宅は、石を使って礎石や石垣を積み、杉や檜、欅などの木材で建物の骨格を組み、土と藁や竹で土壁を作って建てられてきました。その建物の中では、い草や藁などの植物を用いて床の間に柔らかさと暖かさを生み出し、楮や黄蜀葵などの植物から和紙を漉いて空間を美しく仕切り、柔らかな光を生活の中に取り込みました。日本人は自然の素材を使い作られた建物や道具を使い、長きに渡り床の上に座して生活したり寝たりする生活様式を長く続けてきました。自然素材で構成された居住空間に靴を脱いで床に座して生活するという生活習慣は私たちの身体にDNAとして組み込まれています。これを現代の生活空間の中に取り込むことができないだろうかという発想からこの新しいリビングプロダクトの開発が始まりました。

日本人は背筋を伸ばして床座をし、凛とした美しい所作を身に付けて生活を送ってきました。現代のリビングスタイルにある、背もたれに身体を預けるようなバックレストをプロダクトの発想から外してみると、居住空間の中でもう一つのスペースが水平に美しく広がってゆくイメージが想起されました。西洋のライフスタイルを基軸とした現代のリビングシーンの中に、水平方向に広がるシートをレイアウトすることで、伝統的なエッセンスを持った新しい日本的な空間を創造することができます。また、シートを組み合わせて四畳半や六畳といったスペースを構成することで、室内に新たなレイヤーとしての空間を無限に生み出すことができます。古い生活の知恵を学ぶことから、伝統的な要素を取り入れた新しいリビングプロダクトを作ることに繋がりました。

その香りにリラックス効果もある純国産の天然い草を使用した畳は、古くは板の間に敷く寝具として用いられていました。やがて床面に畳を敷き詰めることで、板床から直接身体に寒さが伝わることを防ぎながら柔らかな感触を与え、人々は長時間でも床面に座ることができるようになりました。今日でも伝統的な床素材として多くの住宅で使われています。畳のサイズは日本の住宅建築において長さや面積を示す尺貫法というモジュールと密接に関係しており、畳1枚の大きさを一畳、その半分を半畳と呼びます。日本の住宅における畳とは、建築と一体となったひとつの大きな家具と言えるのです。そのような日本の伝統的な住宅建築の特徴と本質を解読して、畳の在り方を現代の住宅空間へと再解釈した柔軟性を持ったモジュール家具を開発しました。プロダクトの基本のモジュールは京間と呼ばれる大きめの規格の一畳と半畳のサイズを採用しました。古典的な木造建築の木組の構造を取り入れた脚部は良質な秋田杉の無垢材で作られ、しっかりとした強度の中に凛とした空気感も感じることが出来るデザインとなっています。

脚部に組み合わせて乗せるクッションパーツは布団をイメージしたもので、京都の老舗布団メーカーと協力して開発しました。コイルスプリングを使わず内部にキャメル毛を使用して上質で心地よい座り感がもたらされています。座って寛ぐ事はもちろん、自由に寝転んでも快適に過ごせるという、背もたれのない新しいソファの在り方を提案します。脚部に畳を組み合わせれば、四畳半間や六畳間といった小上がりの座敷空間の展開が可能なだけでなく、実にフレキシブルなレイアウトが可能であり、布団マットレスとも組み合わせて、フラットかつ開放的な広がりを持った空間をリビングシーンに実現することが出来ます。

日本庭園の石庭は、草木をほとんど使わずに石や砂だけで山や川の自然を表現します。その様式は禅寺と共に発展したとされ、庭のそばで心を静め瞑想すれば、本来そこにはないはずの川のせせらぎや風の音などの自然、そして世界や宇宙まで感じることが出来るとも言われます。Stone Gardenと名付けたこのプロダクトは、そのような石庭のある寺院の軒下の縁側、その背景からもインスピレーションを得て、日本の本質的なエッセンスを空間に織りなす新しい形を目指しました。