In their ateliers

ON-site with our artisans – Vol.1

The Zen makers

1970年生まれ。20歳で樽丸くりやまに弟子入りし、その後、先代より事業を受け継ぐ。
樽は、材料を作る樽丸職人とその材料を使って樽に仕上げる樽師によって作られる。樽丸とは、酒樽などを作る材料のこと。今でも昔ながらの手加工で樽丸を作り続けているのは、全国でも数軒ほどとなっている。

樽丸くりやま

樽丸職人/大口孝次さん

奈良県吉野郡吉野町

 

T&S:奈良県の吉野杉は、樽や桶をつくる材料を育てるために200年前に植林されたのが始まりだと伺いました。

大口さん:はい。多湿な吉野の地域で育った杉はまっすぐで、節が少なくて、木目が緻密です。そして、何よりも香りがいいです。昔は容器と言えば樽しかなかったんです。なので、吉野杉は酒や醤油の運搬用の樽の材料として重宝されて、吉野林業が発展しました。それが今、樽があまり売れなくなって、建築材に転用したときに目が細かいし、木がまっすぐだから重宝がられるようになったんです。樽を作るために100年とか200年前に山に木を植えたんだけど、今では使われ方が変わって、当時植林をしてくれた人の思いとは違うけど。

T&S:桶や樽の側面に使われる材料を作るお仕事ですが、作業はすべて手作業ですか?

大口さん:そうですね。機械でまっすぐ板状に挽いて形をつくる人たちもいます。機械でやれないこともないけど、木目がまっすぐ端から端まで通らないことがあって、それが漏れる原因になるんです。どっちがいいかと言ったら、一応機械でもできないことはないけど、手でする良さもあるんかな、と思ってます。あとは3か月くらい天日乾燥しておわり、というのがうちの工程。

T&S:樽の表面は何か仕上げをしていますか?それとも無塗装ですか?

大口さん:樽はお酒を吸わせて香りをつけないといけないから、仕上げはしないです。木の産地によって違うけど、秋田杉は油気がない。九州になると油気が強くなって、漏れないけど香りがつかない。北の杉の方が香りと色が強くて、南の方に行くと香りが弱くて色が出ない。吉野の杉は日本列島のちょうど真ん中あたりだからバランスがよくてお酒にはいいと言われてます。

T&S:ご自身で丸太市場へ出向いて樽丸の材料を仕入れていますが、木の良し悪しはどこで見分けているのですか?

大口さん:今までの経験から、こういう木はこういうふうに割れる、というのが分かるんです。感覚なんです。丸太の市場に行って、同じように見える日もあれば、違うように見えるときもある。前日に見に行っても気が付かない木があるんだけど、次の日に行くと、この木いいな、と思う。木に呼び止められるんですよ。じっくり見たから感じるものじゃなくて、パッと見て、今日はこの木に惹かれるな、と言う感じ。
仕事なんだけど、木を見るのが好きなんですね。だから、私は商売には向いてないのかもしれない。以前のように親方がいて、雇ってもらうのが合っているのかな。木を見るのが趣味になってしまってるから。

奈良県・吉野には、何百年にも渡って守り続けられている森があります。多湿な環境にも恵まれ、まっすぐで緻密な木目を持つ吉野杉は、城や寺院の建築材として、または醸造用の樽や桶の材料として重宝されました。80 ~ 100年という長い時間を掛けて、太く、美しい杉へと育てる吉野の森は、人々の営みを支える産業としてだけでなく、この地を守り続けている人々にとって心の拠り所にもなっています。

1984年生まれ。すし桶の製作からスタートした谷川木工芸の3代目。現在では、すし桶のほか、讃岐の桶樽の技術を生かした生活の道具づくりに取り組んでいる。

谷川木工芸

桶結師/谷川 清さん
香川県木田郡

T&S:なぜ吉野杉を選んでいるのですか?

谷川さん:杉は木目が命なんです。吉野杉は傷がつきやすくて扱いにくいけど、木目がきれいなんです。吉野杉の目の細かさじゃないと桶の形状を維持できない。木の目が粗いと傷みやすくなる。だから吉野杉が一番いいと僕は思う。

谷川さん:私のおじいさんが桶屋さんで修行して独立したんですけど、その頃、桶屋さんはたくさんあったそうです。ここら辺でも10軒くらいはあって。その時代は、全国でも近所に桶屋さんがあるのは当たり前のような時代だったから。歩いて行けるところにだいたい桶屋さんがあったんですよ。それで、桶のタガが緩んだらすぐに直してくれたんですよ。今は桶屋さんは全国に40~50軒くらいかな。四国だと、香川に2軒と徳島に2軒。この前、愛媛の桶屋さんから電話が掛かってきて、桶の作り方を教えてほしいって。だから四国には5軒。

T&S:今の時代でも、タガを直してほしいという依頼はありますか?

谷川さん:桶を販売している人もどこで直してもらえるか分からないから、別の所で作った桶を直してほしいって、頼まれることも結構あります。
今までにね、100年前くらいに作られた桶を直してほしいっていう相談があったんですよ。それを直すとなると、使えるようにするだけじゃなくて、その人の思い出を直すようなものだから。新しいのを買った方が安い、と言うのは通用しないし。80歳くらいのおばあちゃんが、自分が生まれたときにはその桶があったわけだから。もう真っ黒になっていて、そのくらいの桶だと、タガを締め直すだけじゃなくて削らないと。その代わり、ちゃんと直したら、もうタガは緩まない。

T&S:一度直した桶ははどのくらい使い続けられるものですか?

谷川さん:新しい桶なら、1年後くらいに1回タガ締めをしてやらないといけない。その後、何回か締めておくとだんだん緩まなくなってくる。100年も使った桶は、直したらあと100年は緩まないと思うよ。

そこに伝統工芸品の価値があると僕は思う。電化製品なら、部品がないから直せないと言われることがあるけど、伝統工芸品は職人がいる限り、ずっと直すことができますから。

Zen – low table

桶や樽は、台所道具として、保存用として、または酒や醤油の運搬用として人々の暮らしとともに使われてきました。私たちは日本の家具メーカーとして、日本の伝統工芸であり、生活に根差した道具を再解釈し、日常の中に溶け込む家具が出来ないかと考えました。素材には、桶に使われている杉を採用し、杉ならではの優しい手触りと木肌の温かみがあります。一般的に家具には硬くて丈夫な広葉樹が多く使われますが、日本の国土を占める針葉樹である杉を使った家具づくりは、私たちに新しい視点を与えてくれました。

about In their ateliers

職人=artisanとは、熟練した技術と手仕事によって物を作り出す人々のことです。家具や工芸のみならず、手仕事によって生活の一部を生み出し、タイムアンドスタイルの製品を形づくっている人たちの言葉を集めました。