全体のアウトラインはそのままに、素材を変えることで変容する存在感と機能性を、この椅子のデザインテーマにしました。多くの椅子づくりにおける命題として軽量性の追求が挙げられます。そのために部材を細くしたり構造を単純にしたり、樹脂素材や軽いアルミのパイプを加工したフレームを用いるなど、多くの試みがなされてきました。
デザインのアウトラインはA chair in the forestと同じですが、A chair outside the cage の背板はラタンを籠目に編み込んだ軽量な素材で作られています。背板と座面の幅の広さが特徴的な椅子ですが、背板をラタンにすることで軽くなり快適な使用感を実現させました。また見た目の軽やかさとラタンの籠目が紡ぎ出す透過性のある佇まいが空間の中にモダンなコロニアル・スタイルの空気感を生み出し、ノスタルジックな雰囲気を漂わせています。モダンとコロニアル・スタイルが融合する姿は日本と東南アジアとの繋がりを感じさせる新しいデザインの在り方だと言えると思います。
椅子というテーマだけでも様々な視点の価値観が存在していますが、普遍的な存在感を持たせることも大切だと考えます。時代とともに変わってゆくものの中に変わらない大切な思想、考え方を保ち続けるということです。
日本では古より続く繊細な工芸が全国各地に継承されています。この椅子を製作している飛騨高山地方は古典建築の大工や木工職人が多く住み、匠の里として知られてきました。日本の最も古い歴史書である「日本書紀」や1,000年前に書かれた小説「源氏物語」にも飛騨の職人たちが真面目で優れた技術者であったことが記されています。飛騨高山の職人たちの精緻なものづくりの精神と情熱は消えることがありません。