清楚で、美しい白磁の器を連想させるペンダント照明です。轆轤で土を挽きあげたように、のびやかで端整な姿を描きました。素焼きの風合いを感じられるように、シェードの表面にはわずかな凹凸をつけて塗装し、儚げな存在感を持つ造形物として宙に浮かびます。
シェードは東京都江戸川区の「へら絞り」の技術で成形しています。「へら絞り」とは金属の平板を回転させながら金型に押し当てて、同心円の立体物に成形してゆく手づくりの金属加工技術です。例えば、宇宙開発のロケットの先端部やパラボラアンテナなど様々な分野でへら絞りの技術が使われています。一つひとつ手加工のため大量生産には向きませんが、複雑な形状も職人の手によって形づくることができます。へら絞りに限らず、陶磁器や漆器の木地の轆轤、ガラスの宙吹きなど、日本のものづくりには、轆轤や回転させて成型する考え方が古くから多用されていることが分かります。
工場を訪問した時、私たちの目に留まったクラシックのオーケストラで使う打楽器のティンパニーの金型を使用して、ペンダント照明を作ることに挑戦しました。試作を繰り返した結果、ティンパニーの金型をそのまま使用することは、製品の進化とそのアイデンティティーにとって、私たちがこれまで作ってきたものづくりの考え方に反します。そこで、ティンパニーの金型を使用しつつも、私たちのエッセンスを付加するために、製品本体の 80 %はティンパニーの金型から、残りの 20 %は私たちで金型を製作しました。1 つの製品を 2 つの金型で絞り、それを繋いで製品を一体に仕上げることが今回の最大のテーマでした。全 5 サイズを用意した bisque の中でも、大型ペンダントはティンパニーの金型を活かし、他のサイズはオリジナル型で製作しています。
bisque は英語で「素焼の陶磁器」という意味があります。へら絞りをしたアルミの本体は白い素焼の陶磁器を思わせる肌合いにしたいと思い、塗装職人によって、薄くて軽いアルミの素地を吹き付け塗装で仕上げてもらいました。