スイスのライスという小さな集落に、ピーター・ズントー氏が設計した別荘が3軒建てられている。木材を井桁状に組んだスイスの伝統的な建築構法を基礎としながら、彼のデザインによって洗練された印象を持つ建築だ。この建築のダイニングルームで使われているレザーチェアは側面の姿が特徴的で、腰をサポートするように背中が膨らみ、柔らかい座り心地を実現している。
現代の家具の製作工程は機械化が進み、縫製を手縫いで行うことはほとんどない。複雑な形状に生地を張り込む場合、背にあたる箇所に付けたジッパーを開閉することで被せる方法が一般的だが、このチェアはその部分を手で縫い合わせて仕上げている。職人が針と糸で丁寧に手縫いしたステッチは、必要な工程を明確に表し、デザインの重要な要素となっている。また、座裏のレザーは真鍮の釘を1本ずつ金槌で打ち込んで張った。
レザー張りの座面に、無垢の木材から削り出した脚が取り付けられたシンプルな構成だが、手作業による工程がこのチェアに特別な印象を与えている。張地には手触りの良いナチュラルな風合いのソフトヌメレザーを選定した。時間と共にレザーの色が濃く染まり、チェアの印象も自然に変化してゆく。