もともと日本の住居では椅子という家具は使われていませんでした。伝統的な日本家屋の居室には、畳と呼ばれるい草を編み込んでマット状にした弾力のある敷物が敷かれており、日本人はその畳の上に直接座って生活してきました。日本人の生活に家具が登場したのは今から150年ほど前の文明開化が進むころ、公共の施設などで西洋の椅子やテーブルなどが使い始められてからのことです。そこから昭和初期までの数十年は、一般家庭ではまだ椅子やテーブルなどは使われていませんでしたが、戦後の高度経済成長期に住居の床が畳からフローリングへと変化するにつれて椅子やテーブルを使った西洋式の生活習慣が浸透してゆきました。現代の日本の住居からは畳の部屋が少なくなりましたが、長く続けてきた生活習慣はそう簡単に消えるものではなく、現在もなお、玄関で靴を脱ぎ、床に座る習慣がほとんどの家庭に残っています。西洋文化を受け入れつつ、伝統的な生活習慣の優れた点を見直す意識も高まっています。
床に座る日本の伝統的な習慣に基づきながら、現代生活の中から引用した椅子の快適性を取り入れた座椅子は、床に座るための脚のない椅子です。日本の生活文化の中から生まれたものの、正統な伝統様式の空間に調和する意匠性を持った座椅子は、多くは存在していません。成形合板で作られた座面と背もたれが一体になった簡易的なタイプがほとんどです。タイムアンドスタイルは4 本脚のダイニングチェアをデザインする時と同じように、空間を象徴するエレメントとなるような、日本的でありながら現代性にも通ずる品格あるデザインの座椅子を作りました。一般的な座椅子よりも座面を少し高くすることで座り心地を高め、また、側面に前後の短い脚と座枠を3点で支持し強度を高める横方向の貫を設けました。このような側面の貫の構造はこれまでの座椅子にはなかった新しいデザインであり、その存在感に軽快さを与えています。背もたれの縦格子は四角棒の角を手作業で1本1本研磨してわずかに丸みを持たせています。この面取りをする工程はとても多くの時間を要する精細な作業になりますが、角棒の背当たりの感触を柔らかくし、縦格子の意匠に日本的な緊張感を持たせて、椅子としての実用性とデザイン性を同居させています。
日本の伝統文化の在り方を継承するだけでなく、文化の本質を受け継ぎながら新しい息吹を吹き込んで新たなものを作り出すことが、これからの日本文化には必要だと考えています。
Liku Japanese chair
Legless chair
W60×D58×H51×SH12×AH30
Beech – Charcoal grey
Leather – Dark brown
BDTI-090
Liku Japanese chair
Legless chair with 1 left armrest
W56×D58×H51×SH12×AH30
Beech – Charcoal grey
Leather – Dark brown
BDTI-094