Table

Moon

このテーブルはデザインから発想してできあがった製品ではありません。自らの手で木を削り、触りながら木材の特性を理解し、形状を見つけてゆくプロセスの中から生まれたテーブルです。どのようなスタイルの空間にも融合し、無垢の木材の柔らかな曲面と現代的な緊張感のあるラインが共存する製品を目指しました。以前は、全ての製品のデザインにおいて、6 面で構成された直方体を基本形としていました。それは日本的な意匠の真髄がシンプルな直方体にあり、そこから簡潔で潔いデザインが生まれると信じていたからです。その直方体のコーナーには必然的に尖った角が生まれ、製品の佇まいに緊張感を作り出します。しかし鋭利に尖った角は家具を使用するに際してストレスを感じることがあります。信条であるシャープな直方体で構成する基本デザインから離れることは難しい決断でしたが、時間の経過とともにそのデザインの在り方にも限界が訪れました。

Moonの天板は端に向かって緩やかに傾斜がついており、アールを描く小口に自然に繋がってゆきます。図面上でこのラインを示したとしても、機械加工だけでは有機的な美しい曲面を持った製品は生まれません。長い間、角のある直方体をデザインの基本構成としてきたからこそ、面と面をどのように繋いでゆけばしなやかで緊張感のある美しい曲面を持つ製品ができるのかを導き出すことができたのかもしれません。木は有機的な素材であり、使う人に優しい手触りを与える重要性を再認識しました。

これまでダイニングテーブルをデザインするにあたって、無垢の木の天板とその四隅に脚を備えたデザインに、天板と脚の一体感を持たせることができない難しさを感じていました。無垢の木の特性上、面の広い天板が湿度と温度の影響を受けて伸びたり縮んだり反ったりするので、必ず天板と脚の接続部に誤差が生じるからです。Moonは、天板とフレームの間に細いスリットを入れることで天板が浮かんでいるかのように視覚的に切り離しつつ、天板の小口の曲面とフレームと脚のコーナーの曲面が同調して全体が渾然一体となるバランスを探り、普遍的な存在感を持つテーブルとして完成しました。

Moon

Rectangular table
W300×D90×H73
Oak – Charcoal grey
BDTT-510

Moon

Square table
W200×D200×H73
Oak – Charcoal grey
BDTT-516

Moon

Round table
φ200×H73
Oak – Charcoal grey
BDTT-526

Sea of tranquility

神社に立つ鳥居の意匠と構造をデザインモチーフとしたテーブルです。鳥居とは神社の参道の入り口に設けられた俗世界と神域の境界を示す象徴です。鳥居は簡潔な形状をしていますが、風雨に強く地震の多い日本でも倒れることがなく、美しい造形をしています。大きなものでは、柱に直径60~80cmを越える樹齢100~500年の杉や檜の丸太が使われます。2本の太い柱を立て、その上に両端が反り上がった笠木と島木が、そしてその下に貫が横に渡されるというのが鳥居の基本的な構造であり、伝統的な方法で組み固められています。

Sea of tranquilityは真横から見ると鳥居と同じ構造で出来ていることが分かります。このテーブルは部材の厚みを感じさせないように全ての端部を薄く細く作っています。大きな無垢板の天板もできるだけ薄く見えるように中心から端に向かって薄く削り出しています。端部は10mm以下まで薄くしてありますが、実際には35mmの板厚があり、強度は十分に確保されています。天板と2 枚の脚を直接繋いでいるのが天板裏の1枚の幕板です。この幕板は鳥居の島木の役割を持っています。2枚の脚も端が薄く見えるように、全体を飛行機の翼のような流線形に削り出しました。そして最も印象的な意匠となっている2 枚の脚を真ん中で繋ぐ貫も同様に細く削ることで、テーブル全体の意匠に統一感と軽快感を持たせました。

Sea of tranquilityは月に存在する海の名称です。1969 年7月20日にアポロ11号によって人類が初めて月面着陸した場所がSea of tranquility =「静かの海」です。日本らしい簡潔な意匠がもたらす静けさと月の静かな海のイメージを重ね合わせ、無垢材のテーブルでありながら軽快で、洗練された静けさを湛えたテーブルが完成しました。

Sea of tranquility

Rectangular table
W300×D110×H73
Oak – Charcoal grey
BDTT-708